福利厚生の目的を考える⑦….採用力とインターンシップ
2026
3/03
最近の学生達の就職活動をみているとインターンシップの役割の大きさが年々高まってきていることを実感する。大学側としては長年、職業意識、キャリア意識の醸成としてカリキュラムの一環として単位認定を行い長年、推進してきたが、様相が一変している。この変容するインターンシップの変化をみながら、そこでの福利厚生の活用の可能性を考えてみたいと思う。
そもそもインターンシップ導入の必要性を最も早く訴えたのは産業界で1991年にまでさかのぼる。経済同友会による提言『選択の教育を目指して』のなかで、「教育界との相互交流のひとつとして学生のジョブインターンへの支援」が提案された。続いて、1995 年には日本経団連が『新時代に挑戦する大学改革と企業の対応』において、大学教育の充実、カリキュラムの充実を要請するなかで、「現在の大学教育においては、実社会での経験を積み、個人の就労観・勤労観、思いやり・社会奉仕の心を学ぶ機会が少ないので、学生の企業実習・体験学習やボランティア活動をカリキュラムの中に取り入れることを強く望みたい」という産業界からのかなり強いトーンの提言がなされた。
こうした産業界からの要請への対応として文科省、労働省、経産省によって省庁間の綱引き、鞘当てのようにそれぞれインターンシップを巡る産学懇談会、研究会、検討会、連絡会議などが次々と設置され、1997年9月にようやく「三省合意」を得て本格的に動き始めることとなる。
このように当初から、わが国のインターンシップは産業界の強い要請で始まったわけだが、彼らには元々明確な問題意識があった。まず第一に、在学時代に明確な、確固たる就業観を形成させることで、その後の現実の就職活動、そして初期の就業でのミスマッチを防ぎたいこと。それが早期離職という企業、従業員個人の双方にとって不幸な事態を回避することを期待した。そして第二に、在学段階早期において卒業、修了後の進路や職業がある程度、明確化されることが、翻って在学時の学習、研究をより実りあるもの、つまり実践性を持った知識学習とさせたかったのである。換言すれば、当時の大学教育では確固たる将来の職業意識も持たせることができず、在学時に実践的な知識や技能を身に付けようという意識も希薄な、そして大企業志向だけが強い「なんとなく就社」の学生が大量生産されていたからである。この事態に強い不満感をもった産業界が、ある意味で大学改革を促した結果なのである。大学人としては実に耳の痛い話である。今なお、大学が十分に産業界の人材育成期待に応えられているかと問われれば心許ない限りである。
そして今、インターンシップは再び企業主導で多様な変化を見せ始めている。これは企業にとって採用、定着両面での実効性をより高めようとする動きと考えられる。
平尾・田中(2017)、董(2012)らの整理によれば、インターンシップの多様化は多次元で同時進行していることがわかる。目的として従来の採用非直結型、実務・専門知識獲得型から採用直結型へ。期間も中・長期型からワンデー(One Day)呼ばれる短期型が飛躍的に拡がり。単位認定型が基本形であったが、今では単位非認定型が大半となっている。手当て(報酬)に関しても「手当て無し型」で一般的であったものが、募集力を高めるためか「手当て有り型」が増えてきている。そして内容的にも「体験型と実践型」、「教育型と労働型」などで多様性を増している。インターンシップ応募でもES的情報の提出が求められるようになっている。
では、そうした期待された効果が実際に得られたのか。これまでのインターンシップの効果研究をみるが、大きく「学習効果」と「就職効果(入社後の定着等含む)」に二分される。
島田(2006)は実践的な観点からインターンシップが学生の就職率に及ぼす影響を検討している。六か月という長期インターンシップ(企業実習)に参加した大学生、企業、公的機関の視点からインターンシップの効果を経験前後において聞き取り調査を行ったのである。そこで、前後に回答スコアに大きな変化が見られた項目として「大学での勉強の大切さ(3.5→4.4)」「他人と強調して働く大変さ(3.8→4.8)」「責任ある行動(3.8→4.8)」「日本語の知識(3.8→4.4)」などを示している。なかでも変化が大きい項目として「自分にとってインターンシップ制度の大切さ」となっていた点も興味深い。近年、短期化する傾向が強いが、長期インターンシップでの学習と就職、双方での効果の範囲の広さが注目される。変化の大きい項目、すなわち学習された内容はいずれも産業界が期待してしたものでこともわかる。
最近の研究で武石(2015)が、「ワーキングパーソン調査,2010」(リクルートワークス研究所)の二次分析か卒業後の賃金プロファイルを比較し、インターンシップのマッチング効果を検証した。文系卒業者はインターンシップを経験し、かつその経験に対する満足度が高い場合、またインターンシップ先に実際に就職した場合の双方のケースについて賃金上昇に有意な効果を持つことを検証した。これは、良きマッチングがなされ、社内で高評価を得る活躍ができたことが推定される。また、理系卒業者の場合も、インターンシップの経験とその企業に就職したケースにおいて、仕事の満足度や勤務先に対する満足度を高い点が確認されている。これと類似した研究では、小杉(2007)が、企業と求職者のマッチングの観点から入社した企業での定着志向を持つ学生ほど経験したインターンシップに対する評価が高いと指摘しており、高橋(2007)もインターンシップを通じて内定を得ている学生のミスマッチが少ないことを指摘している。採用、定着だけではなく生産性の上昇に寄与する可能性を示したといえよう。
インターンシップの教育面での効果を検証したものに三浦(2016)の研究がある。勤務する大学での短期インターンシップへの参加学生と非参加学生を標本とする調査分析から「インターンシップ経験学生と未経験学生の間には、GPA(Grade Point Average)でみた成績の差異が二年生後期以降で有意に高くなること」、また「3年後期及び4年前期のGPAを高めること」などを明らかにした。これらはインターンシップ経験が大学での学習意欲を刺激したことを示唆している。また、同分析では進路決定率に対する因果分析も行われ、未経験者と比較して経験者が有意に、決定率が高い点も示された。インターンシップ経験が在学時の学習意欲と進路決定の双方に効果があることが明らかにされた。
藤(2019)らは『就職白書2019』の学生調査のデータを用いて解析を行い、インターンシップ効果を検証した。第一の効果は、やはり就活を推進させることであった。第二は、その後の社会人生活のスタートに必要な知識やスキルを習得することで入社後のモチベーションを高めることができたことである。さらに他の効果として、業種や職種、職務内容や職場の雰囲気等を知ることができたことや、職種、業種、企業に対し、新たに興味を持つことができたこと、等である。
こうしたインターンシップ効果に関する代表的な先行研究をみると、企業側の採用活動のみならず、入社後の定着、生産性の向上などにも有効であることが示されている。
やはり、企業や仕事、職場を実体験、実感として知ることが、学生達の態度変容を効率的効果的に引き出すことは明らかである。また、いわゆる、入社後のリアリティ・ショックという問題を緩和させることができる点も重要である。
最近では、インターンシップの実施にあたって福利厚生施策である社員食堂や社内イベントなどの場を活用して学生たちのグループによるワークショッブなどを行うこともある。今は、社員たちもフリーアドレス制で社内のあちらこちら仕事しているが、その時にもランチタイム後の社員食堂のスペースなどを活用しているようだ。社員と学生達が隣り合わせで議論している風景はなかなか良いものである。福利厚生は「仕事」そのものではなく「職場生活」に根差したものが多い。その事が応募者、学生達にとってリアルな“社会人としての日々の生活”を明確に意識させることになるのである。
会社生活の実体験としてさらに、福利厚生という存在をインターンシップ、採用活動の場にもっと活かしていくべきだと筆者は考えている。
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