- 近年の福利厚生全体での変化をあえて一言で表すとすれば、生成期から高度成長、そしてバブル期頃までに成立した伝統的な福利厚生、すなわち「衣食住遊」とう多面的な「生活支援型」の変質である。その変質とは、生活の豊かさを求めた支援ではなく、従業員が長い職業生活において直面する「リスク」への対処に対する支援への変化である。
- リスクは多様である。代表的なものでは、出産・育児、健康、老後資金、医療費、自己啓発(能力・知識の陳腐化李リスク)といったもので、従業員にとっての長い職業生活を維持する上、あるいは退職後の生活におけるリスクとなる。これらのリスクに対する予防、回避、損失補填などのための制度・施策が、注目されるようになってきた。この全体的な変化を、やや表面的に捉えると「ハコもの(施設附帯型施策)」から「ヒトもの」へ、という制度編成の変容となって現れるのである。「ヒトもの」こそが、ヒト≒従業員、人的資源の価値の維持に対する直接的な投資施策である。
- このような「リスク支援型」への制度全体変化の中で、近年、急速に注目を集め始めたものが「介護」に対する両立支援である。企業が福利厚生を通して従業員を支援する場合の「介護支援」は、従業員本人の介護への準備問題ではなく、現役の職業人として活躍する間に発生する家族介護、特に老親介護に焦点が当てられる。
- なぜ、従業員の現役期において「介護」が、就業上のリスクとして位置づけられるのか。
まず、従業員にとっては、従業員自身と配偶者、双方での老親のいずれかが要介護状態となると、たちまち、多忙な仕事との両立問題が浮上する。適当な施設入居がすぐにできればまだしも、在宅介護となった場合には、家族が介護者としての時間的、肉体的、経済的、そして精神的負荷の四つの負荷、負担に直面することになる。この老親介護の負荷とは、いわば、もうひとつの労働負荷の発生に伴う「ワーク・ワーク・バランス(work-work balance)」の問題として捉えなければならない。多忙な第一の労働に加えて、出口の見えない第二の労働に就くことが強制されることになる。この二つの労働の同時発生に伴う時間的、肉体的、経済的、そして精神的コンフリクト(conflict : 葛藤)に長期間、苛まれることになる。当然、円滑な第一の就業にとって大きな支障をきたす危険性が発生する。
- 少子高齢化が今後、さらに進行する過程で、要介護者が急速に増加することが確実視されており、それが仕事との両立問題に直面する労働者を確実に増大させること点について、企業の人事管理部門としては、何らかの対応策が必要であることは十分、認識するに至っている。人事管理上、基本的にこの問題を放置することによって、介護に直面した自社の中核人材が、離職にまで至るような深刻な事態となってしまうと、大きな経営的損失となることを危惧している。
このような認識の下で、これまでの日本企業による従業員に対する介護支援は、基本的には休暇・休業の追加によるものが大半であった。そして、その多くは法定の介護休職制度(93日)、介護休暇制度(5日)に対してその上限日数に上乗せする形で、支援制度づくりを行ってきた。例えば、例えば、本連載でも紹介したは京都にあるグローバル展開を行っている大手電子機器製造企業での支援例では、介護による休業を通算で365日までの取得を認めている。また、介護開始に伴う住宅改修費用や施設入居時の一時金負担に対する支援として一定額の見舞金などを給付なども制度化している。この問題のワーク・ライフ・バランス問題として捉えたときに、ワークの負荷を一時的に軽減することで、老親介護に対処する時間的余地を提供しようとする考え方である。
- 周知のとおり、企業による「介護支援」は、しばしば「育児支援」と比較され、その課題としての厄介な特性が指摘されることが多い。休暇・休業支援からはじめようとしている現在の対応はまさに、育児問題がクローズアップされてからの支援の経緯近似している。
しかし、「育児」と同様の発想、視点からの対応では「介護」に対する有効な支援は困難であることが徐々に明らかになってきている。
「育児」と「介護」、このふたつの支援課題としての特性比較を行ってみよう。
まず第一に、育児はかなり確定的な「有期」の問題であり、一定期間の支援として想定することができる。したがって、育児中の支援と職場復帰プログラム等が接続できる支援として制度設計や予算措置が比較的容易である。一方で、「介護」は、要介護認定を受けた時点あたりから始まるが、その終結時点が容易に見通せない。つまり、支援する側からの時間的予見が難しい。
第二に、「育児」が直列型を前提として考えられる。つまり、第一子の出産、育児が一段落してから、第二子と続く。多くのケースでは一定のインターバルもある。一方、介護は、配偶者の老親も含めて、同時多発的となる危険性を有している。つまり、並列的に複数の要介護者に関与することが求められる可能性がある。複数の重度の要介護者を抱えることにでもなれば、仕事との両立の難易度、ハードルが飛躍的に高くすることは言うまでもない。
第三に、「育児」が、出産直後の乳幼児の段階での肉体的負荷が大きく、辛い時期から、生育とともに徐々に負担が軽減する可能性が高い。保育施設に預けられるようになる頃には、出産直後の時点とは違って、育児負担はかなり軽減される。一方で、「介護」では一般的には、症状の悪化や認知症の発症など、負荷が時間と共に重くなるため、支援の重点を考慮する必要に迫られる。
第四の特性が最も重要な点ともいえるのだが、支援対象となる従業員の年齢、そして社内での地位等の違いである。出産・育児では基本的に女性従業員が大半で、かつ年齢層も比較的若い層である。このため中枢的な管理職であるケースが比較的少ない。つまり、休職等による業務運営上の悪影響がそれほど深刻なものではなく、OB社員の非正社員採用などによる代替要員の確保の可能性も比較的高く、容易である。しかし、「介護」では、当事者となる従業員は40歳代後半から50歳代後半まであたりが、その中心層となる。このあたりの年齢層では、課長職、部長職といった比較的上位の管理職に就いているケースが多く、社内での業務上、果たすべき役割が大きく、業績責任を負っていることが少なくない。また、当然のことだが、部下もおり、彼らに対する指導、育成責任なども有している。要するに、各部門の重要な中核人材として、部門内でリーダーシップを発揮し、企業を支える立場にいる可能性が高い層となる。したがって、仮に、一時的な休職となっても、その代替要員の確保も難しく、進行中のプロジェクトの成否などにも直接的に関わってくることにもなり、企業としてのダメージが、「育児」で休職する若年層に比較して圧倒的に大きくなる。このような点は、当然、当人も認識しており、老親介護に直面して苦悩していること自体を、企業側に伝え、支援を求めることを躊躇させることにもなる。このことが事態をさらに深刻化させるケースにつながる。
第五の特性としては、近年の企業内での実例を取材していると実感するものだが、これも重要度が高い。すなわち、要介護者との空間的な距離の問題である。「育児」の場合には、説明を要しないだろが、乳幼児とその育児の当事者となる女性従業員は、当然、同居しているため、移動等の問題が生じる余地はない。しかし、「介護」のケースではしばし、「遠隔地介護」の問題となる。現在の大都市圏で勤務する中高年層の管理職の多くは、高卒後、大卒後、あるいはそれ以前の入学時点に地方社会から社会移動によって両親との別居状態となっているケースが多い。特に、高学歴層であるほど、適職が大都市圏に集中しているため、現在の勤務地及び通勤可能な自宅と、要介護者となった老親宅との地理的な距離が離れており、移動コスト(時間的、経済的、肉体負荷的)が、大きな問題となる。この「遠隔地」問題そのものが、仕事との両立の障害となるのである。筆者が取材できたケースでも、本社営業部の本部長クラスの人材が、月に四度も鹿児島まで老親を介護のために往復しており、心身共に消耗しているといったものがある。
第六に、当事者、補助者からなる体制上の特性がある。誰が主たる担い手となり、誰が補助者となるかという点である。まず、「育児」については、現状では、母親が主たる担い手となって、父親が補助的に介入するケースが基本形で、そこにいずれかの両親が同居、近居する場合には、補助者、支援者として協力することになる。一方、「介護」のケースでは、かなり複雑で、多様な形態となる。まず、要介護者が従業員当人の老親か、配偶者の老親か、によって変わってくる。また、当人及び配偶者に兄弟姉妹がいるか、長男長女が、そうではないか。また、それらの当人と兄弟姉妹と、要介護者との同別居、住居・施設との距離がどうなっているか、等々によって、主たる当事者が誰であるかが変わってくる。この当事者関係の複雑さが、企業側からの支援を困難なものとしているひとつの要因である。要するに、わが社の従業員が負荷の大きい当事者か、そうではない補助的な当事者なのか、の特定が難しく、支援受給において「育児」以上にモラルリスクが介在する余地が出てくる。
以上、「育児」と「介護」との支援課題としての特性を比較してみると、「介護」に対しては、育児支援の応用型ではなく、問題の本質を認識した上での独自の対応が必要であことは明らかである。
- 近年のわが国の企業による介護支援のケースにおいて、そうした新たな観点をもった介護支援策を実現した先進的な事例といえるのものが、IT業界大手のNECグループが2011年度から導入を図った支援策である。当社のケースは、それまでの休業・休暇の追加的支援、一時見舞金といった、それまでの多くの企業での支援のあり方から、大きく一歩、踏み出す内容となった。その経緯と狙いなどについて紹介したい。
- まず、企業紹介だが、NECグループ従業員は、2009年度末(NEC健康保険組合加入ベース)は、NECグループ全体で、10.9万人、うちNEC本体で 2.8万人を擁する大手企業である。ワーク・ライフ・バランスに対応は、これまでも積極的に行われてきており、ファミリー・フレンドリー企業厚生労働大臣優良賞受賞(2001年)、日本経済新聞社『働きやすい会社』調査総合第1位(2003年)、次世代法に基づく次世代認定マーク取得(厚生労働大臣認定/2007年)、日本経済新聞社『働きやすい会社』調査総合第1位(2008年)など、多くの顕彰がなされてきた。
当然、介護問題に対しても、90年代から着手されており、図表1に示すとおり、介護求職上乗せ、介護短時間勤務制度、ファミリーフレンドリー休暇など、時間面での支援を積極的に行ってきている。
図表1 第一ステップの対応
- このような、当初の対応を当社では「第一ステップ」と位置づけた。そして、図表2にあるように、「育児支援」と対比させながら、「育児」と「介護」、両者ともに「働き続ける(就労継続)」のための基盤整備」と同様の目的意識をもつものとした。ただし、前者には「女性従業員の活用」という重要な経営上の課題であることを明確してしたのに対して、後者の「介護」については「高齢化社会への対応」という社会的課題への貢献とし、やや異なる施策成果の位置づけを行っている。
図表2 対応の進化
- このような早期からの介護支援に着手し、施策の整備がなされながら、なぜ、さらに第二ステップと名付けられる支援施策への拡充されるに至ったのか。その第一の理由は、第一ステップの施策として提供した介護休職取得者の実態であった。図表3をみていただければわかるが、まず取得者の年齢分布では「40歳代」が最も多く、全体の43%を占め、次いで、「30歳代」が37%で、両層を合わせると全体の8割を超える。この年齢層は、社内では管理職層であり、各部門の業務を牽引する、当社にとってまさに中核的な人材であることが明らかになる。上位管理職層の可能性が高い「40歳台以上」も全体の55%である。これは、持続的な部門業務の遂行を考えるときに、大きな潜在的リスクといえだろう。
- 一方、取得期間の分布(右図)をみると、かなり分散していことがわかる。「3ヶ月以下」が38%ともっと多いが、「10-12ヶ月」という取得可能期間の上限に到達する長い層も3割以上となる。これは、先の特性比較でもしてきしたとおり、老親介護という問題への対応における時間的な不確実性の存在が現れている。短期取得で一定のメドが着いて、職場復帰できればよいが、第一ステップでの休業制度の上限を超える長期も発生する可能性が十分にあることが示されている。また、長期化するケースでは、施設費、交通費等の経済的負担も大きなものとなるであろうし、当事者として関わる従業員にとっては、自身のキャリアの継続や職場との関係性の維持など、心理的な苦労が蓄積することも容易に想像される。
図表3 介護休職取得者の実態(2005-2009)
- また、当社の試算では、当時のグループ従業員10.9万人のうちの6割が、いつ老親介護になってもおかしくない「介護世代(45歳以上)」であることや、公表された介護保険統計において、75歳以上の要介護認定率が大幅に上昇したことが明らかになった時期でもあった(認定率30%)。この「介護世代」で、平均的に老親が75歳前後に到達するのである。加えて、この時点の当社の従業員の平均年齢は41歳であったことからすると、多くの従業員が介護リスクに直面するリスクがいよいよい高まってきていることが実感されたのである。
- こうした切迫した状況を認識するなかで、当社が、第一ステップから、さらに踏み込んだ対応の必要性を自覚したわけだが、では、どのような方向性での拡充を目指すべきなのか、慎重な検討が行われた。
当社の結論は図表4に示すものとなった。
まず第一に、先の休業取得実績で観測された「介護期間の不透明性」に着目した。介護期間の個人差が大きいことが、大きな問題であり、最も大きなリスクとなった当事者のダメージが深刻なものであり、彼らを救済する施策の重要度が高いと結論づけた。介護の特性をよく認識した結論である。第二は、当事者のメンタル面でのダメージに着目したものである。この点も先の特性比較で触れたとおり、40歳代、50歳代の多忙な管理職、責任の重い役職に就いている従業員にとって、気軽に周囲に相談して、仕事のやりくりができる状況とは想像し難い。孤立感に苛まれ、また、今後の展望についての不安感に押しつぶされかねないい事態も想像される。介護もまた、メンタル不全問題であるという認識に達したのである。第三の方向性も、介護問題に直面したときに長期化に伴って「高リスク」となる層への対応を重視したものである。すなわち、介護者の経済的負担を軽減することの重要性に着目した。介護を擁する老親が遠隔地に居住するケースなどでは顕著だが、その経済的負担が重くのしかかってくる。その負担を軽減することが、実質的な支援になると結論づけたのである。
図表4 第二ステップの考え方(支援拡充の方向性)
- この三つの方向性が結論づけられ、それぞれ「長期化リスクの軽減」「介護支援コミュニティの形成」「公的介護保険の経済的補完」という制度コンセプトとして固まってゆくことになる。この第一ステップから第二ステップへの進化を、当事者たちのコンセンサスとして図表5のように表現している。
第一ステップとしての休業、休暇、短時間勤務等の様々な時間的支援を総括したときに、それは「働き方」に関する柔軟性や余裕度を高めることで、その余力を「介護」という厄介なな個人的問題に当てられるように配慮しようというものであった。確かに、育児では育児休職や育児期の短時間勤務の円滑な利用によって、仕事との両立問題の多くの部分が解決することが可能であった。「介護」も同様の問題であると認識したときに、まずは時間的支援に着者することは自然の対応である。
- しかし、「介護」は、検討したとおり、育児では想定しなかった様々な重大なリスクを内包していることが認識されたとき、第一ステップにあった時間的支援だけでは十分な対応といえないことが明らかになる。当社では、第一ステップを「働き方」の支援と位置づけた上で、第二ステップを「ベネフィット」として、新たな性格付けを行ったのである。ここでの「ベネフィット」には、福利厚生施策として補助表記されている。
この「ベネフィット」という言葉こそが、介護を「働き方」としての対応から、さらに一歩踏み込んだ対応を意味するものである。つまり、介護の直面し、それが長期化するなかで、経済的リスク、メンタル・リスク、人間関係的リスク、キャリア・リスクなどとして、リスクが増幅、拡散しようとするときに、企業が従業員のために、それぞれのリスクに対して個別に、直接的な支援、恩恵を提供しようという発想に転換されたのである。まさに、今日的な福利厚生の存在意義といってもよいだろう。実効性をもったセーフティ・ネットとして機能させることで、「従業員の安心感」を得ようとする目的意識が、より鮮明になったとも考えられる。
図表5 進化の位置づけ
具体的な施策展開については、図表6に整理したとおりである。
- まず、先に第一の特性として指摘したように、介護のもつ時間的な不確実性、つまり予期せぬ長期化への対応として「介護転居費用補助」と「介護休職給付金(改訂)」の導入に踏み込んだ。前者は、遠隔地にいる老親を従業員の居住地近郊に転居する費用に対する支援である。従業員の移動による疲弊を回避するためには、早い時期に思い切って転居を促すことは、かなり有効な対応策となる可能性が高い。他の介護補助者の協力も期待でき、施設確保に成功する可能性が高まるケースもある。長期の介護となるだろうと判断できた従業員にとっては、有り難い施策である。一方、後者では法定の介護休業給付金に対して上乗せ給付を行うものである。介護の長期化に伴うランニング・コスト負担の長期化が、家計に大きなダメージを与えることを防止する狙いである。この支援策も介護という課題の特性、特に「高リスク」層となった場合をよく理解した上での対応策であることがわかる。
- 今回の当社の介護支援策は、従来から展開していた一般的な介護支援策を強化、拡張する形で「第二ステップ」と位置づけられ、進化を遂げたものである。この第二ステップにおいて、新たに着目された点が介護者のメンタル面での支援である。老親のために十分な対応ができていないとする罪悪感、焦燥感や、誰にも相談することができないことによる孤立感など多忙な業務に就きながら介護という深刻な生活課題に向き合わざるを得ない従業員には、メンタル面からの支援が重要である。この対応としてIT企業らしく「介護支援コミュニティ」と名付けたポータルサイトを設置した。介護に苦悩する者同士の悩みの共有やノウハウの交換、介護相談など、孤立しない介護を実現するための基盤的な仕組みを提供した。ITリテラシーの高い当社従業員ならば、活用する可能性は高いだろう。また、外部の専門事業者との提携によって、全国規模での介護事業者の紹介や恩典の提供などの機会を提供することとした。
図表6 NECの介護支援制度(第二ステップ)
このNECグループでの一連の取り組み経過は、労働者にとっての介護という問題の特性、困難さを十分に理解した上での、効果的な対応となっている。当年八月には、改正高齢者雇用安定法が成立し、企業内では従来以上に高年齢層が増える。結果的には、就労上の介護との両立問題が、急速に拡大することになると考えられる。「育児との両立支援」が、少子化への対応として政策的課題に位置づけられ、政府、労使が一体となって取り組まれたわけだが、「介護との両立支援」は、問題としての規模的大きさ、企業経営への影響、そして問題解決の困難さなど、育児を超えた問題となる可能性が高い。政府、労使がどのような役割分担のなかで、この問題に対処すべきか、議論を始める時期にきていると考えられる。
介護が重大な経営問題、人事管理問題となる兆候は既に現れ始めている。図表7は、雇用動向調査から理由別(個人的理由の内訳)での離職者の推移を平成22年までみたものである。比較上、「結婚」「出産・育児」についても掲載している。傾向としてみると、「介護」は、未だ緩やかなものだが、明らかに上昇傾向を示し始めている。下降傾向にある「結婚」「出産・育児」等とは対照的である。
この介護による離職動向は、高齢化の進展に伴う要介護者の急増や次にみる介護施設環境の変化などによって、ある時期に大きく上ブレすることも懸念されるところである。
図表7 離職理由別の離職者推移
雇用動向調査(厚生労働省)より作成
また、介護保険関連の統計からその実態をみるときに、介護形態の変化に注目する必要がある。図表8は、2000年4月時点と、2009年4月時点での介護サービス利用の変化を比較したものである。サービス利用全体が158%と大きく増えていることと同時に、その内訳としての在宅介護に伴う「居宅サービス」がこの間に187%と、さらに大きく増加している。一方で、「施設サービス」は60%と、サービス全体の伸びを下回っている。
言うまでもなく、この在宅介護形態の増加傾向は、仕事との両立問題が拡大する可能性が高いことを示しているのである。要介護者そのものの増加以上に、両立問題の拡大速度が早いのではないかとも考えられる。
図表8 在宅介護サービスの増加
- このように「介護」というわが国にとっての大きな社会問題の動向を、見ていると今回のNECの先進的な取り組みが、決して時間的に本当に先進的か、という疑問すら湧いてくる。つまり、第二ステップで実現されたような、個々のリスクにまで踏み込んだ実効性のある支援を準備しなければならないタイミングが、今、もう目前まで迫っているという感覚である。まさに、経営問題としての喫緊の課題と既になっているのではなかろうか。
- グローバル競争が激化するなかで、当社を含め家電・ITデバイス産業の業績は厳しさを増している。雇用の維持すら困難な局面を迎える可能性も残念ながら現実のものとなりつつある。従業員は不安も高まるばかりであろう、と推察される。
だからこそ、「介護」という全ての従業員に共有される、大きなリスクに対して、造り込まれたセーフティ・ネットが完備されることの意義、すなわち従業員にとっての安心感は大きいのではなかろうか。様々な不安感が次々と堆積するばかりではなく、その一部であっても軽減できる支援が行われることに企業に対するコミットメントを新たにする従業員も少なからずいるのではなかろうか。
最後に未だ、リスクの全容が捉えがたく、多くの企業が対応に躊躇するなかで、あえて未知の領域に踏み込んだ当社の勇気ある対応、決断に敬意を表したい。このNECの対応が、これから続く多くの日本企業にとって、先進的取り組みを実現するまでの議論の経緯も含めて、労使双方が倣うべき先行モデルとなることは間違いないだろう。
先進事例シリーズ②….喫緊の課題、介護支援…勇気ある一歩を踏み出したNEC(2010年当時)


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