福利厚生の目的を考える➈….モチベーション

ここまで福利厚生の目的として、「定着性」、「採用力」を検討してきたが、この両者と比べても近年、関心が最も高まってきたものとして、「モチベーションの向上」がある。  労働政策研究研修機構が平成30年に発表した「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」においても、企業の目的意識としての関心が集まっていた。当調査は全国の10人以上規模の民間企業1万2000社を対象に行われ、2,809 社から有効回答を得ている。小規模企業まで対象とした、わが国の企業層に対する代表性に優れた調査である。この調査でも、「従業員の仕事に対する意欲の向上」を目的とする企業は、現在で、60.1%今後でも55.0%と最も多くの企業に支持された目的であった。今後の目的で比較してみると「定着性」は50.1%、採用力(人材の確保)」が52.6%であって、相対的に少ないという結果だった。

グラフ解説

・調査対象
平成 26(2014)年経済センサス基礎調査(確報)の企業分布に従い、東京商工リサーチの企業情報データベースから、産業・規模別に層化無作為抽出した、全国の 10 人以上規模の民間企業1万 2,000 社(農林漁業、鉱業を除いた 15 大産業)と、そこで働く従業員約5万 4,000 人 (従業員票は企業の規模に応じ、1 社あたり「30 人未満」規模 3 枚、「30~99 人」規模 6 枚、「100~299 人」規模 9 枚、「300 人以上」規模 12 枚をそれぞれ配分)
・調査方法および実施時期
方法:郵送による調査票の配付・回収 時期:2017 年 10 月 28 日~12 月 20 日
・有効回収数: 企業 2,809 社/有効回答率 23.4% 従業員 8,298 人/有効回答率 15.4%

なぜ、「意欲」すなわちモチベーションがこれほど多くの企業に今後、解決すべきものと問題視とされているのか。さらになぜ、福利厚生にこの問題解決の役割を担わそうと考えるのか。このあたりの原点から考えてみたい。
まず、近年の日本企業のモチベーションへの関心の高まりには様々な外的要因が作用していると筆者は考えている。キーワードは、いくつかある。まず何よりグローバル化の進展であり、さらに少子高齢化、技術イノベーション(ICT、IOT、RBA等)の進展、そして働き方改革、などの外的要因である。
これまで世界からは日本人労働者に対して「勤勉性(work ethic)」の高さという評価が極めて高かったことは読者諸兄もご存じであろう。コツコツ、真面目に、一生懸命、というワークスタイルが世界最高の製品品質を実現し、高い国際競争力に結実したわけだが、最近はこの「勤勉」という特質は特筆されるほど高い評価とは言われなくなったように感じる。この勤勉性に替わって、強く求められるようになったものがモチベーションではないだろうか。 この勤勉からモチベーションへの変化を、経営学では、イノベーション理論から説明されることが多い。すなわち、プロセスイノベーションから、プロダクトイノベーションへと、先進国の到達したわが国に求められる競争力の原点が転移したとする説である。家電、自動車、精密機器等々、高度成長期に世界を席巻したわが国の製品群の多くは、欧米での基礎研究の蓄積や創造的発想から生み出された製品アイデアが具現化された製品であった。ベル、ダイムラー、エジソン、フォードなどの革新者がそれまでの世界に無かった革新的な製品を開発・生産したことが契機である。わが国はそれらの製品を、まさに「勤勉」に模倣し、徹底的に改善・改良してコストパフォーマンスに優れた高品質製品を、「勤勉」に大量生産・大量販売することで先進国への階段を駆け上ったわけである。いわば、欧米での全く新しい革新的な製品を生み出すプロダクトイノベーションの恩恵を受けて、わが国は「勤勉」を武器に絶え間ないプロセスイノベーション(改善・改良)をもって企業成長、経済成長を実現させてきたわけである。
しかし、である。80年代頃より本格的なグローバル競争時代を迎えて、既に先進国となって高い労働コストを余儀なくされるなかで、もはやプロセスイノベーションだけでは限界に達したのである。劇的に廉価なアジア諸国の人件費、地代等の下での生産体制をもつ諸国に対抗することは実に困難な競争となった。諸国を含めて世界市場での持続的な競争優位を維持するためには、わが国自身が連続的なプロダクトイノベーションを求めて模索する途しか残されていないのである。働き方として換言すれば、「勤勉」だけでは通用しないわけで、革新、創造を生み出す「モチベーション」が労働の現場において不可欠な、価値ある時代となったともいえよう。
話はやや逸れるが、この二つのイノベーションについて大河ドラマをみていて感じたことがある。桶狭間の合戦とはまさにプロセスイノベーションの賜物なのであると。日本人は優れた鋳造技術を持ちつつも「鉄砲」という革新的製品に到達しえなかった。しかし、その活用法は画期的で長いロードタイム(弾込め時間)という致命的ともいえる欠点を三段備えと防護柵というアイデアで克服した。しかし、見方を変えると「鉄砲」という他国のプロダクトイノベーションなくして、田楽狭間での信長の勝利はなかったのである。信長を戦法の革新者の評する歴史学者は多いが、経営学からみると、あれは使用法の工夫であって改善・改良の世界でしかないのであるいのである。
竹内肇(2009)では、このイノベーションを阻害する要因を「関」という興味深い表現で三点指摘されている。「関」というのは文字通り、関所の「関」で、さえぎり止めるものである。この関を超えられるかが重要とする。三つの関の第一は「認識の関」である。これは、まず解決すべき課題や問題を正確に認識できない、あるいは、誤認識しまうことを意味する。経営学ではしばし語られる「茹で蛙(ゆでがえる)」現象などか典型例である。第二の関は「文化の関」である。これは常識や経験、先入観、固定観念などがしばし新たな創造を忌避させ、阻害する。例えば経営学ではSuccess Trap(成功の罠)と呼ばれるものであろう。創業者の成功体験など大きな文化の関となって改革を遅らせるわけである。そして、第三の関が「感情の関」とする。間違った笑われるという羞恥心や無気力、無関心といった人間の感情面が革新的な挑戦の足を引っ張ることを示す。
こうしたイノベーションの厄介な人間的な阻害要因を克服するためには「勤勉」ではなく「モチベーション」がどうしても必要となる。
グローバル化以外の外的要因にもモチベーションを希求させる様々な流れがある。少子高齢化の進展から生産年齢人口が急速に減少し、国内での労働供給が細るなかで、そこに加えて本格的な働き方改革が始まり、長時間労働の是正が余儀なくされてくると、必然的に求められるのが労働生産性の向上である。先進国のなかでも極端に劣後する労働生産性の向上での旧来型の「勤勉」は必ずしも寄与しない。コツコツ、真面目にというスタイルはともすれば労働時間を長引かせ、かえって生産性を引き下げてしまいかねない。テキパキ、集中して、無駄を削って成果を出す働き方が求められるわけである。また、単純な繰り返し作業で活きた「勤勉」な作業はICT、IOT、RBAなどで省人化されていく運命にある。こうした様々な外的要因が「勤勉」から「モチベーション」への流れを生み出したのではなかろうか。
モチベーションには三つの機能があるとされている。それは「始発機能」「強化機能」「評価機能」である。この三つの機能は創造的な組織風土、行動様式を醸成する上で欠かせない機能となる。
始発機能とは文字通り、行動を自ら起こさせる機能である。「顧客の反応が、なんとなく変だ、調べよう」「部下の様子がおかしい、声をかけてみよう」、こうした自発的行動を促す機能である。第二の強化機能とは、行動を持続させる機能である。「もう少しで終るから、最後まで頑張ろう!」「この問題をもっと、深く、掘り下げて分析したい」といったように行動を単に持続させるだけでなく成果や深化させることにつなげる機能である。そして第三の評価機能は自らの行動が目的達成に対して最適ものかどうか、自己評価しさせる機能である「よくできた、でも、これが最善なのか?」「もっと良い方法が他にあるのでは?」といった自己の行動を客観的に評価し、新たな改善行動を繋げるという機能である。
モチベーション向上という表現は、日常的に使われているが、こうした優れた機能があることを理解することも必要であろう。この三つのモチベーション機能をみていただくと、いずれの機能も先のイノベーション阻害要因である「三つの関」を克服し、労働生産性の向上に有効な機能であることがおわかりいただけるだろう。

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